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Wisteria
Wisteria

~愛酔~







愛してる――そう囁くのはとても簡単で――なのに、ひどく辛かった。
止まらず溢れ出る涙とともに、すべてが壊れ失せる錯覚に捕われる。
愛してる――それは自分達を呪う言葉だと気付いていた。
だが、言わずにいることは受呪より苦しかったから。
俺はハーデスの治める場所へ、共に落ちることを選んだ。




それは、まだ二人とも幼いある日――白い花が咲き始めた頃の、果敢無い出会いだった。

「父上ー!」

幼い俺は、石造りの廊下の先に父の姿を発見し、走り寄りながら呼びかけた。
父の斜め後ろに、黒のローブをまとった男と、同じくローブを被った――こちらはフードまですっぽりとかぶっている――子供がいた。
俺の声に、父は歩みを止め、軽く振りかえった。ローブ姿の男と子供も、少し遅れて振り返る。
このローブ姿の男は知っている。父の側近の一人で、我が国一番の魔術師だ。名は、レグナ。父は魔術に大層興味があるから、一緒に話をしているところを良く見かける。
子供の方は――

「あっ」

! こける――!
不意に石の床との距離が近くなり、下に引っ張られる感覚から来たる衝撃に備えて目をつぶった、瞬間――俺は誰かに抱きとめられた。

「…………?」

ゆっくり目を開けると、黒いローブと小さい手が視界に入った。

「――……あ、ありがとう」

それだけしか、言えなかった。
俺を抱きとめた反動で脱げたフードから現れたのは、緑の瞳。
大きな瞳と、整った眉、すっと通った鼻筋に、桃色の頬、ふっくらとした唇、少し丸みを帯びた子供らしい輪郭。その端正な顔を覆うのは少し長めの黒髪だった。
俺を寸でで支えたその子供は、俺が自力で立ちあがると、礼をしてからフードをかぶりなおし、父とレグナのもとへ戻って行った。
父がその子に話しかける。レグナとも2言3言かわすと、父は踵を返し、佇む俺のもとへ来てくれた。
レグナとその子は、礼をしてそのまま廊下の先へと去って行く。

「父上、あの子は…」

「レグナの弟子だ」

「魔術師…?」

ローブを着ていたのだから、当然と言えば当然か。
同い年くらいだろうか。名前は何と言うのだろう。

―――また、会えるかな…




その子はよく王家の庭にいた。
ただ花を眺めていた。
白い――枯れてもなお白く、どこまでも誇り高い花を。
まるで自分もそう在らねばならぬと決意を再認するように。

「………名は?」

俺は居てもたってもいられず、そっと近づいて話しかけた。
相変わらずローブのフードを目深にかぶったその子は、特に驚きもせず、振り返ると跪いて答えた。

「名も無き花。それがこの白い花です。誰にも汚されない…」

「違う」

声を聞けたことは嬉しかったが、違う答えが返ってきた。そうじゃない、俺が聞きたかったのは――

「お前の名だ」

「…私は、ガランサスと申します」

少年――どうやら少年のようだ――は、顔を伏せたまま答えた。

―――ガランサス…

胸の中で反芻すると、何とも言えない嬉しさが込み上げてきた。心躍る、とは、このことだろうか。

「ガランサス、お前は――」




そうして花壇の前での密会が始まった。
ガランサスは、庭以外で見かけることはなかった。
俺はいつしか、彼のことを白い花の精霊という認識になっていた。




ある日、警鐘が鳴った。モンスターだ。
別に珍しくもない。この国は、よくモンスターに襲われる。
力が強いからだ。聖なる力が魔物を引き寄せる。
俺は初めて父に連れられ、戦場に出た。
剣を握りはしなかったが、兵が戦う姿がよく見えた。
悲惨だった。
父が、どんどんモンスターの数が増えていると言っていた。
戦闘が終わり、負傷者が運び出される。
彼等は重傷なものから運ばれ、治癒系魔術師の手当を受ける。
まさかと思ってついていったが、ガランサスの姿はなかった。
まだ見習いだと言っていたことを思い出す。
少し、安堵した。




そして次の襲撃のとき――
またしても戦場に連れ出された俺は、目を見張った。
最前線に立つもの――それはまだ幼く、大きめのローブが愛らしい――ガランサスだ。
見間違えるはずもない。
見慣れた姿。
彼が両手を広げ、両断するように薙ぎ払うと、前方に炎が巻き起こった。
強大で広大だった。
まるで生きているかのように、鮮やかだった。
こちらに向かってきたモンスターが、次々と飲み込まれて行く。
ガランサスが倒れた。
力尽きたのだ。
俺はとっさに走り出そうとして――父に止められた。
誰かがガランサスを担ぎ連れ去り、ガランサスの術から逃れたモンスターを兵が倒して行く。
今度は悲惨じゃなかった。
しかし俺にとっては、前以上に悲惨だった。
ガランサスが。
戦場に。




それから何度かモンスターが襲ってきた。
その度にガランサスは最前線で、第一陣だった。
ガランサスは何度も倒れた。
だが、父に辞めさせるように懇願することはできなかった。
ガランサス自身が望んでいたからだ。
存在意義だと彼の目が語っていた。
悲しかった。
月に一度の花の逢瀬は、ガランサスにとって生きる意味になり得なかった。
俺はガランサスが――ガランサスのことが誰よりも好きになったのに。
ガランサスは――




ガランサスは寡黙な少年だった。
俺が15歳になったとき、同時に彼は近衛魔術師の一員になった。
"噂では聞いていた凄腕の魔術師"
"幾度となく国を守った魔術師"
今まで伏せられていた彼が、表舞台に出た初めての日。
彼はそれ以来、ちょくちょく集会に出席するようになった。
誰もが驚いた。
あまりにも美しいその姿に。
16歳という年齢に。
好奇な視線の中、彼は目を伏せ、口を固く結んで、真っすぐに立っていた。
話しをしても、淡々としていて冷ややかだった。
俺と二人きりのときもあまり喋る方ではなかったが、それでも微かに笑ってくれたりしたのに。
だが俺は嬉しかった。
俺との逢瀬は、公私の私だったのだ。
だれもが公と接する中、ガランサスだけは『友達』だった。
皆がいる前では、俺とも目は合わさないし、堅苦しく喋るけれど。
何の苦でもなかった。
そんなの俺も同じだ。
公の場に出れば、俺は俺ではなく王子だ。
俺は本当のガランサスを知っている。
それだけで温かかった。




高位の魔術師になっても、ガランサスはよく庭にいた。
ガランサスは日増しに綺麗になっているような気がする。
誰かに取られそうで――権力以外では繋ぎ止められなくなりそうで。
最近俺は、よくガランサスに触れる。
今日も、二の腕あたりのローブを軽くひっぱり、ガランサスの視線を独り占めした。

「? どうなさったんですか? 王子」

ガランサスは、ローブを握る俺の手にそっと触れ、上目づかいで不思議そうに俺を見る。

―――どうしよう、ガランサスは男なのに…好きだ

ガランサスが、好きだ。
俺はその想いを秘めたまま、月日が流れていった。




「生誕祭…ですか?」

「そうだ。私はこの国を離れられない。お前が行け」

王都で、50歳を迎えるロード王の誕生日晩餐会が行われるらしい。
父――ホーリィグレース王は、王座を開けられない。モンスターがいつ襲ってくるか分からないからだ。
面倒だったが、俺が行くしかない。

「護衛にガランサスを付けてやる」

ドキリとした。
ガランサスが一緒なら――退屈な食事会も悪くない。


王都へ向かう馬車の中。
給仕たちは別の馬車に乗せたから、今はガランサスと二人きりだ。
長時間向かい合うのは初めてで、楽しい。
律儀にずっと顔を伏せているガランサスに、俺は笑いかけた。

「ガランサス、こっち向けよ。御者からは見えないんだから」

するとガランサスは、ゆっくりと顔をあげ、俺の方を向いた。
暗い馬車の中、ガランサスのエメラルドの瞳と目が会う。
昔から感じていた違和感。
ガランサスの目は、どこか不自然だ。
形は大きくて整っているし睫毛も長い。よくみると、少し垂れ目なところが愛くるしい。
だが、瞳の中は、光に当たるとうっすら別の色が見える。違和感は、きっとそのせいなのだろう。
ローブのフードから漏れる漆黒の一房の髪。
ガランサスは髪を触られるのを嫌がる。だから俺は、一度も触れたことがなかった。
ガランサスの髪はどこか――無機質だ。
ガランサスは今日もローブ姿で、王都に着いても、そうなのだろう。
俺はふと、ローブ姿以外見たことがないことに気が付いた。フードを外したところを見たことすらない……いや、一度だけ。ガランサスと出会ったあの日。俺が転びそうなのを助けてくれた拍子に…すぐに被り直してしまったが。
危険な目に会えばもしかして――


馬車が止まった。さすがに1週間馬車に揺られるのは辛い。
鈍った体を解そうにも、扉を開ければ王の住む都だ。恰好のつかないことは許されない。
と――

「! が、ガランサス?」

ガランサスが俺の腕を掴んだ。そのまま反対の手で、俺の手を握る。
俺は顔が赤くなるのを感じた。

「…………」

―――! 魔術!?

繋がれた部分から、温かさが流れ込んできた。
ややして、ガランサスの手が離れる。
ガランサスは少し怪訝な目をした。俺がきっと、残念そうな顔をしたのだろう。
だがガランサスは、特に声をかけてくることもなく腰をあげる。降りるのだ。
気を引きしめる。
扉を開ければ、俺は王子だ。
いつの間にか、だるさが抜けている。

―――ガランサス…ありがとう

ガランサスに魔術をかけられたのは初めてだ。俺は相当緊張していたのかもしれない。
馬車を降りると、執事が出迎え、部屋へと案内された。
途中何人かの招待客とすれ違う。みな、一瞬異様な目で見るが、すぐさま笑顔に切り替わり、にこやかに挨拶をしてくる。
部屋について執事が出て行った後、俺は頭を抱えて慌て始めた。
ともに部屋へと付いてきた――護衛なのだから当然だ――ガランサスが、少し驚いたように声をかける。

「王子…?」

「――ガランサス」

「はい」

「俺はとんでもない失態を犯してしまったかもしれない…」

「? なんですか?」

「パートナーだよ! もしかしなくても俺はダンスを踊らなければならないのではないか!?」

「そうですね」

ガランサスがくすりと笑った。

「父上は何の心配もないからガランサスだけを連れて行けとおっしゃったが――いや、たしかに護衛としては申し分ないが――まさかダンスの相手を侍女やらせるわけには行かないだろう!? そんなの、いい笑い物だ!!」

「――」

ガランサスが何か言い掛けたが、錯乱している俺は止まらない。

「厳かな食事会のみだと思っていたが、なんだこの明るい華やかな雰囲気は! まるで社交会…! まさか父上は、この場でパートナーを見つけてこいとのご意志なのか!? ガランサスも知っているだろう!? 我が国が怖れられていることを――いや知っているよな、お前がついてきてくれているのだから――さっきだってそうだ、みんなこの髪を見て、不気味な顔をして、すぐにホーリィグレースだと気づき会釈をした! まるで触らぬ神に祟りなしだ!! いや、だが、ここで我が国の権威を落とすわけには行かない! 何としてもこのピンチを乗り越えなくては…!」

「王子」

「なんだ、ガランサス」

一気に言い終えた俺は、ガランサスの呼びかけで少し冷静さを取り戻す。

「パートナーのことなら、ご心配には及びません」

「何?」

「私が王子のパートナーを勤めます」

「………………え?」

「もうあまり時間がありませんね。侍女を呼びますので、お着替えください」

「いや、ガランサス、だってお前……」

「お早く、ご準備を」

ガランサスは一礼して部屋を出ていった。交代に、侍女が数人荷物を持って入ってくる。
確かに時間はない。
だがガランサスはわかっているのか? パートナーということはつまり――


ガランサスの女装は完璧だった。
あの後、俺は侍女の手により、少し派手な正装に着替えた。
ガランサスは別室で着替えていたらしい。
程なくして、お待たせしましたと俺の部屋に入ってきたガランサスは、どこからどう見ても女性だった。

―――勘弁してくれよ…

ただでさえ好きなのに…心が勘違いしてしまう。
もっと好きになってしまう。
好きになってもいいのだと、思ってしまう。
行きましょうとガランサスが俺の腕をとった瞬間、ガランサスの胸に腕が当たった。

―――ニセモノ、偽物…落ち着け俺…!

ガランサスは、露出のほとんど押さえられた――ただし背中はがっつり開いている――深緑のドレスに、薄いベールをかぶっている。
未婚の女性が社交の場で身につけることが決まりとなっているとはいえ、ガランサスの顔が見えにくいのは少し寂しい。
きっとあまり見えないとはいえ、うっすらと化粧をしていて、とても美しいだろうに…

―――いやいや、ガランサスは父上に命令されて、このような格好をしてくれているんだ! 俺もきちんと王子として勤めなければ…!!

歩き出すとガランサスの結われた黒髪――存外長い――が、付けられた飾りとともに揺れ、しゃんしゃんと音がする。
そういえば昔、母上もこのような音がしていた……
懐かしさがこみ上げ、少し気持ちが落ち着く。

―――大丈夫だ、いける

俺はまっすぐ前を向いて歩き出した。


広間に入ると、そこは完全なるダンスパーティだった。
だが、俺たちが入ってきたことで、一瞬にして空気が凍り付き、皆の視線が集中する。
いつものことだ。
みな銀髪が余程怖いらしい。
腕で繋がるガランサスが整然としていること感じ取り、俺は胸を張って歩き出した。
動きの止まった――演奏すらも止まった会場で、真っ直ぐ王座に座す国王の元に向かう。
2人分の靴音が、いやに響く。
俺は適度な位置で立ち止まり、国王に礼を述べた。
きちんと招待されたのだと、会場にいる者たちにも聞こえるように、通る声で。
国王はにこりと笑って俺をねぎらい、みなにパーティを続けるよう指示した。
そして、再び美しい旋律の流れる会場で、俺に近くにくるよう手招く。
失礼のないところまで近づいた俺に国王は、からかうように小声で話しかけた。
良い娘ではないか、大切にしなさい――と。
ロード王は父上と懇意だ。俺も何度も、我が国でもここ王都でもお会いしたことがあり、昔から良くしてもらっている。俺は、俺を恐れない――我が国を恐れないこの方が好きだ。この慈愛に満ちた目が。
だから。

「違うのです、王。彼は私の護衛なんです」

俺は正直に、ガランサスがそういう存在ではないことを明かした。
本当は、そういう存在であってほしかったけれども。

「何を言う、彼女はれっきとした――」

「王子!!」

ガランサスの悲鳴に似た声を聞くのと同時、軽く胴を押された。
キィンという音がして、目の前の――俺をかばうように立つガランサスが握る短剣と、何者かが放つ長剣が火花を散らす。
パーティ会場が悲鳴に埋もれた。
ガランサスと襲撃者は何度か切り結び、気がつけば周りでも似たようなことが行われていた。
しかし俺はふと、場違いなことを考えていた。

―――ガランサス、なんて綺麗な太刀筋なんだ

だがそれも一瞬のこと、俺は王を振り返った。王は数人の護衛――いずれも精鋭だ――に守られていた。
安心した俺は、次にガランサスの心配をする。
と――

「…つっ」

敵の剣の切っ先が、ガランサスの胸元をかすめた。ガランサスはギリギリでかわしたが、深緑のドレスが破ける。

「ガランサス!」

俺は体勢を崩したガランサスをかばうように移動し、ガランサスの手から短剣を奪い取る。追撃を加えようとする襲撃者の剣を何とか受け、力任せに押し返した。
襲撃者は一歩下がり、すぐにまた仕掛けてくる。
これらを慣れない短剣で何度か受け流していると、突如、襲撃者が炎に包まれた。

「うわっと」

俺は瞬時に後ろに飛び――他の襲撃者も同様に炎に包まれ悲鳴を上げている様を眺める。その様を――襲撃者たちがもう動けないだろうところまで確認して、ガランサスを振り返った。

「ガランサス、よくやった――? 痛むのか?」

魔術で撃退したことへの労いの言葉を受けて、軽く礼をしたガランサスは、礼をしながらも胸元を押さえていた。
心配してガランサスに近づいて――気づく。
ガランサスが避けた胸元を押さえていたのは、胸を隠すためだ――本物の…

「――!」

俺はとっさにブレザーを脱ぎ、ガランサスの肩に掛ける。

「申し訳ございません、王子」

表面上は王子面する中、俺の頭は混乱していた。
ガランサスが、女性…?


パーティは一時解散となった。
俺はロード王から盛大な労いをもらい、ガランサスを連れて部屋へと戻った。
あの程度、ガランサスにとって――我が国にとってどうとないことだ。
神が人間などに負けるわけがない。
だがそんな思いは欠片も出さずに――王は気づいているだろうが――俺は誉れ高い顔をして見せた。
部屋に戻り、ガランサスはいつものローブ姿に戻った。
怪我はしていないらしい。

「謝罪はいたしません」

ガランサスはそう言った。

「ですが、王子の手を煩わせてしまったこと、生涯胸に刻み、よりいっそう精進しいたします」

違う、そんなことはどうでも良い。
あの場でガランサスは、俺のパートナーだった。護衛ではなく。
ならば、あの場は俺が前に出ても間違いではない。
だから、そんなことは気にする必要はないのだ。
"謝罪はいたしません"
そう、思い返してみればガランサスは一度も男だとは告げていない。ただ、女性らしい素振りをしなかっただけだ。偽っていたわけではない。
それでも、俺は錯乱していた。
どうしたらいいか分からなくて、ガランサスが目深にかぶっているフードを取る。

「髪、短くなってしまったな…」

俺は半ば無意識にガランサスの短くなった――ざんばらな黒髪を触った。先ほどの戦闘で、垂らしていた髪を切られたのだ。

「問題ありません」

ガランサスは素っ気なく告げた。

「問題ないわけがないだろう! それに、怪我はしていないだと!? 虚偽は許さない! 俺は、お前が"痛い"と言ったのをしっかりと聞いたんだ」

ガランサスの腕をつかんで引き寄せる。
胸のあたりを軽くさわると、ガランサスの顔が歪んだ。やはり怪我をしている。あの場で派手に血が出ていなかったから大した怪我ではないのだろうが、ここは痛いはずだ。
俺は引き寄せたガランサスの顎を持ち上げ、口づけをした。
俺の持つ神の力――再生の力だ。
俺は、癒しの力が低いから口移しでないと発動できない。それはガランサスも知っている。だから、ガランサスは身をよじった。護衛が王子に癒してもらうなど、以ての外だと思ったのだろう。
だが俺は、しっかりと抱き寄せて離さなかった。
傷が癒えるまで力を送り続け――大した怪我ではなかったから思った以上に短い時間だったため――その後もまだ口づけを続けていた。
そのことに気づいたガランサスが、抵抗をよりいっそう強める。
俺はちくりと胸が痛むのを感じ――そんなにいやなのか――そっとガランサスの唇を離した。
その瞬間、

「なりません、王子」

腕の中でガランサスが訴える。
それでも抱きしめて離さない俺を見て、ガランサスは短くなった自分の髪を引っ張った。
すると――なんと言うことだろう――黒髪がずり落ちて、銀色の髪が現れた。

「――っ!?」

それは、俺と同じ――ホーリィグレース王家特有の髪色。

「が、……らん…さす?」

そしてガランサスは、俺の手を逃れ、下を向いた。
何をしているのか――考えるまで思考が至らない。
そして再び俺をみたガランサスの瞳は――濃紫だった。
紫の瞳は、神の瞳。
昔からホーリィグレース王家に極に生まれる。いずれも強大な力を持つ――その力故に幾度も国を守り、破滅へと導いてきた存在。
現在では禁忌とされ、紫眼が生まれた場合は、例え第一王位継承者候補であっても城の一角に隔離されることになっている。

「私の本当の名前は、雪雫」

―――せつ、り……昔亡くなられた姉上の名…?

「ま、さか、そんな……」

「偽っていたこと、申し訳ありません。でも、もうこれ以上は……自分をだませなくなりそうだから」

俺が好きな人は、男ではなく女性だった…のに、亡くなられたはずの姉上だった…?

「これ以上偽っていると、あなたが好きな気持ちに、歯止めが利かなくなりそうだから」

―――好、き…?

俺はガランサスの紫眼をみた。
ガランサスが、はにかむように笑う。

「私は王子の異母姉の雪雫です。死んだことになっていましたが、ホーリィグレースを守るためには必要でした――私の力が」

情報が、なかなか頭に入ってこない。
きっと、どうでも良いことなのだ、そんなことは。

―――す、き…

「ですが、公に神の力をふるうわけにはいきません。なので、魔術を習得し、私は魔術師となりました――戦で最前線に立つことを条件に、私はある程度の自由を得たのです」

銀の髪と紫の目、黒髪と緑の目――そんな違いが、何だというのだろう。
俺はガランサスが好きで、ガランサスは俺が好きで。

「でも、愛することへの自由は与えられていない――私は、これ以上あなたに近づいたら、自由を失ってしまう。あなたを、傷つけてしまう」

いつになく喋るガランサス――その声色は女性のものだった。
ならば、何の問題もないだろう?

「俺は、ガランサスが――お前が好きだ」

「っ――!」

まだ何か続けようとしていたガランサスの言葉を遮る。
そう、たとえこれが許されない恋だとしても。
紫眼が禁忌? そんなこと知ったことか。
親しい血筋? そんなことは神の力の前では無意味だ。
ガランサスが俺のことを心配するのなら――偽り続ければいい、すべてを。
次代の王である俺が許すのなら、何も問題はない。
だから、

「ガランサス、共に――ハーデスの治める地へ落ちよう」


―――2人で、冥府の果てを見つけよう―――








思い返してみれば、ガランサス――それは、我が国に咲く色無し花――白い花の別名だ。
そう、彼女は最初から、予期していたのだ。自分が、”神の花”となることを。
俺は今日この日、ホーリィグレース国の王となった。もっとも恐れられる存在――神となったのだ。
そして、俺の陰には常に、黒髪緑瞳の魔術師がいる。
俺は、この世で最も罪深き神になる――




END



2011/07/15(Fri) | テキスト(その他) | コメント(1) | page top↑
コメント
--解説--

皆様、こんばんは!
突然何の前振りもなく、こんな変てこなプチ小説をupしまして申し訳ありません…!
実は思いつきで暇な時間にぷちぷち書いていたものでして、
計画性は全くなし、全体的なストーリーとかも考えずに書いております
いきなりどうした!?って感じですが、まぁそんないきさつです(笑)

Wisteria、つまり藤ですね
藤自体は話に全く関係しませんが、
花言葉が「愛に酔う」でしたので、これだ!と題名にしました
まぁ、藤→藤色→薄紫→紫とかも、ちょっと考えていたりします(←
そして、ガランサス=スノードロップ
=ホーリィグレース(神の国)にしか咲かない白い花(色無し花)です
お決まりの、いつも通りの設定です(笑)
雪雫(読み:せつり)は、スノードロップ=雪のしずく、から漢字をそのまま名前にし、
しずく=涙=ルイ≒リ、ということでセツリと読ませました
ちなみに主人公、まさかの、名前が出てきません(爆笑)
まぁたまにはそんなこともありますヽ´▽`ノ ←

今回のテーマは「愛」と「禁忌」、でも怪しい方向に行かないように「神」を前面に書いたつもりです
計画性がないのでストーリーに深みが全くありませんが、(←
うたた寝のときに見た夢、程度にお考えください!

解説は以上!!
次回からは、ラピス・ラズリか水紫月明を進めていきますので、
今後ともどうぞ宜しくお願いいたします^^


紫翠
by: 紫翠 * 2011/07/17 00:47 * URL [ 編集] | page top↑
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